その後 刹那〜フルスロットル
作/sinen
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作者コメント/
獣道の本編終了時から次回作の間をイメージした二次創作です。 今回は獣道での出来ごとに深く関わり、なおかつ、明確に死亡が確認されていない石川さんに登場してもらいました。 一人では話が動かしにくいので、オリジナルな登場人物がいるので、苦手な方は注意してください

長い山道を走る一台の車。
その場所は地図にも載っていない道にも関わらず舗装されている。
山を大分上がると、急に開けた場所に出た。
周囲は木々が生えているが、一部が平地になっている。平地と言うが、雑草が生い茂っているため人が久しく来ていないようだ。

車が止まると助手席から一人降りてきた。その人物は女性で意志の強い−上司に噛みつくような−瞳をしていた。
彼女は平地の真ん中に足を進めると、ゆっくり周囲を見回していた。まるで何かを探すかのように…。

「こんなとこまで連れてきて…。何なんですか?」

運転席から降りた男性は女性に疑問をぶつけた。

「ここ?…ここは私にとって忘れられない事件があった…。いや、終わった場所」

「へぇ〜。人目のない、それも地図にない広大な土地…。結構デカいヤマだったみたいですな。石川さん」

石川と呼ばれた女性は寂しそうに笑った。

「あなたは覚えている?天堂グループ施設の爆破『事故』」

「勿論、あの時はまだしがないカメラマンでしたがね…。日本一とも言える巨大なグループのナンバーワンとその右腕が施設ごと消し飛んだ…。今でもゴタゴタが残っていますが」

「そう…。『表向き』はそうね」

女性の思わせぶりな言葉を聞き、男は興味を表した。

「『表向き』ってことは、真相は違うと?」

「あなたには話した方がいいかしらね…。仕事のパートナーだしね」

二人は記者と刑事という間柄。
互いに情報を交換する固い信頼関係を築いている。
彼の口の固さは彼女自身が知っている。

彼女はここでの出来事。その結末にいたるまでの流れを語った。
男は荒唐無稽とも言える話を、黙って、一言一句漏らさないように真剣な表情で聞いていた。
「にわかには信じられないですね…。漫画の世界じゃないですか?」

「まぁそう思うわよね…。私も最初は信じられなかったし…」
「でも、信じますよ。石川さんが嘘をつく訳ないし。第一、こんな複雑な嘘なんか考えられないですし」

カラカラと笑う男に対し、軽く睨みつける石川。

「そうなると、ここはその『家族』が消えた場所ですね…」

そう言うと男は車に戻り鞄を取り出してきた。その中から線香を取り、火を付け草のない場所に立てた。
フリーカメラマンの彼は様々な現場に足を運ぶ。勿論、死人が出た場所も…。そのため、普段から持ち歩いている。

「で、あれからそれなりに時間が経った今、俺を連れてここに来たのにはどんなわけがあるんですか?」

「あなた以外に話せる相手がいなかっただけ。警察で話たらまた停職になるだろうし…」

「あれから私なりに調べたのよ。施設が丸ごと爆破したのにメディアにはあまり取り上げられていない。今までなら天堂が圧力を掛けていたけど、その本人は死んでいる…。だとしたら似たような組織があると睨んでいるのよ」

「確かに、カルト的な思想を天堂が考えたとは考えにくいですね。そうなると、他にも組織が…それも外国に」

「外国と考えた理由は?」

「日本には天堂グループに並ぶ組織はない。人造人間なんてSFなことを秘密裏に作るには技術、資金、権力が必要ですからね。その全てを天堂グループと同じくらい持っている組織は日本にはない。だとしたら、国外にいると考えたらすんなりいく」

「うん、及第点。よくあの情報で考えたられたわね」

「もう一つ、私がこの事件に巻き込まれるきっかけになった占い師が施設爆破後に姿を消したのよ。恐らく、彼女は何かを知っていると思っていたのに…」
「石川さんの先輩が事件に関わる物を持っている…、と伝えた女性ですか?」

「そう、あの時は別の事件の聞き込みだったから先輩もそんなことは一言も言わなかったのに…。恐らく、彼女は何かしらの能力を持っていると考えているのよ」

「確かに、強化人間を作るような組織があるんだ。未来予知なんてあっても可笑しくない。ただ、国外だと手出しがし難いですね」

「まだまだ甘いわね。仮に天堂グループが所属するような世界的な組織があるのなら、天堂亡き今、彼らが組織の中での地位を上げるために日本を手に入れようと思うでしょうね」

「そうなると、今後は他の国から覇権争いをしに化け物が来る可能性が?」

「無いと言い切れないわね…。あなたも十分気をつけて。情報が入ったらコッソリ教えてね」

「毎度毎度無茶な注文を言いますね…」